パーキンソン病の方の歩行障害に対する外部刺激(聴覚刺激 等)は本当に効果があるのか?【論文紹介】
パーキンソン病では歩幅が狭くなる小刻み歩行や、足が出づらくなるすくみ足等の症状を呈する事があります。
セラピストの方は臨床においてパーキンソン病の方の歩行練習を行う際にリズミカルな音(手拍子等)や視覚的な刺激(床に線を引く)等用いることがあるのではないでしょうか。
学校や教科書等で習う内容でもパーキンソン病の方に音や視覚的な刺激を用いる事が勧められている事かと思います。
日本神経学会が2011年に出した「パーキンソン病治療ガイドライン2011」においては 「外部刺激、特に聴覚刺激による歩行訓練で歩行は改善する(グレードA)」 と記載があります。
※ ガイドライン=先行研究等をもとに治療の指針をまとめた文書。
※ グレードA=強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
パーキンソン病治療ガイドライン2011|日本神経学会治療ガイドライン|ガイドライン|日本神経学会
また、同学会が2018年に出した「パーキンソン病治療ガイドライン2018」でも運動療法は有効と示されており、 「パーキンソン病への音楽療法は、外部刺激により運動症状が改善することから注目されている。」 と記載があります。
パーキンソン病診療ガイドライン2018|日本神経学会治療ガイドライン|ガイドライン|日本神経学会
やはり外部刺激をパーキンソン病の方に用いるのは良さそうですが、臨床においてはどのような音でどういう時に用いたら、何に対して効果があるのか迷いませんか?
それに外部刺激を用いているときはいいけれど、その後の持続効果(外部刺激を取り除いても効果が持続するか)といった部分は皆さんも考えることかと思います。
聴覚刺激の有効性についてドイツ、ハノーファー大学のGhaiらは2018年にメタアナリシスの論文を発表しています。
※ メタアナリシス=複数の原著論文のデータをまとめた総説論文。エビデンスが高いと言われる。
論文タイトルの紹介:Effect of rhythmic auditory cueing on parkinsonian gait: A systematic review and meta-analysis.
著者:Shashank Ghai
雑誌:SCIENTIFIC REPORTS(インパクトファクター4.011 2018年)
発行年:2018年
内容:
【Abstract(要旨)】
◎パーキンソン病の方の歩行、姿勢に対する聴覚フィードバックの影響を分析するためにメタアナリシスを実施した。
◎1982人の対象者を含む50件の研究が選択基準を満たした。
◎結果として、歩行速度、歩幅にプラス効果があり、ケイデンスにマイナス効果があった。
【本文の内容(簡潔に)】
イントロ:
◎運動面に対する利益の根本的なメカニズムは多面的である。
※メカニズムについては後日、他記事にてまとめたいと思います。
◎パーキンソン病患者に対する聴覚フィードバックを含む外部刺激の有効性に関するシステマティックレビュー、メタアナリシスはこれまでにいくつかされてきているが、異質性を含み、統計解析が不十分である事が考えられる。
Methods:
◎データは歩行解析をしているランダム化比較試験、比較臨床試験を含む。
◎効果量はHedge’s gで報告。
→0 効果なし、− 負の効果、0.2 小さな効果、0.5 中等度の効果、0.8 大きな効果
Results:
◎50の研究中、46の研究でリズムカルな聴覚刺激は歩行向上に寄与した。
歩行速度に対する効果 (正の効果量→速くなる、負の効果量→遅くなる)
◎全体の研究をまとめたフォレストプロットによると小さな効果量があった( g: 0.23 , 95%信頼区間 : 0.1 〜 0.3, I2: 87.4%, p > 0.01)。
※I2は異質性を表す指標。
〜On時とOff時の効果量〜
On時には中等度の生の効果量、Off時には小さな正の効果量があった。
〜テンポの早さの違い〜
テンポの早さを早くすると中等度の正の効果量、遅くすると小さな負の効果量があった。
〜対象者のパーキンソン病発症からの期間の違い〜
9年未満では小さな正の効果量、9年以上では小さな負の効果量があった。
〜介入時間〜
20分の介入で大きな正の効果量があった。
〜介入期間〜
5週未満の介入で中等度の正の効果量、5週以上の介入で小さな正の効果量があった。
歩幅に対する効果(正の効果量→広くなる、負の効果量→狭くなる)
◎全体の研究をまとめたフォレストプロットによると小さな正の効果量があった( g: 0.42 , 95%信頼区間 : 0.35 ~ 0.5, I2: 85.05%, p < 0.01 )。
〜On時とOff時の効果量〜
On時には大きな正の効果量、Off時には小さな正の効果量があった。
〜介入期間〜
5週間以上、未満共に中等度の正の効果量があった。
〜介入頻度〜
週に5回以上、5回未満共に小さな正の効果量があった。
ケイデンスに対する効果(正の効果量→多くなる、負の効果量→少なくなる)
◎全体の研究をまとめたフォレストプロットによると小さな負の効果量があった事があった( g: −0.05 , 95%信頼区間: −0.13 ~ 0.03, I2: 93.6%, p < 0.01 )。
〜テンポの早さの違い〜
テンポの早さを早くすると大きな正の効果量、遅くすると大きな負の効果量があった。
その他
〜方向転換の所用時間〜
聴覚刺激の使用で大きな正の効果量があった。
Discussion :
本研究をまとめると、パーキンソン病患者の歩行能力向上を図るための聴覚刺激の使用は1日に最低20-45分、1週間に3〜5日間、対象者のケーデンスに対して±10%程度のテンポの変動を付加する事がいいかもしれない。
以下は私の意見です。
本論文より、歩行時に聴覚刺激を用いることは歩行速度などに対して良い効果がある可能性は高そうです。
しかし、冒頭に述べたように聴覚刺激を除いた後の持続効果だったり、対象者の属性、例えばパーキンソン病の病型(振戦型、固縮型)などへの反応の違いはどうなのか気になるところです。
また、外部刺激も用いる頻度には注意が必要で、時には除いたりして、その時にどの神経回路を使用して運動学習を進めるか考えながら介入する必要があるのではと考えています。
持続効果に関しては、ベルギーのカトリエケ大学のNieuwboerらが2007年に報告したRESCUE trialの内容が参考になりそうなので、また機会があったら紹介させて頂きたいと思います。
以上です。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
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参考文献:
Shashank G, et al. Effect of rhythmic auditory cueing on parkinsonian gait: A systematic review and meta-analysis.SCIENTIFIC REPORTS . 2018 Jan;8(506):1-19.