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【論文紹介】パーキンソン病の方への運動による脳への影響【対象:セラピスト】

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こんにちは。

所用により先日まで東京に行っておりましたが、

暖かいのは南国だけかと思いきや、その通り、東京でシャツ一枚で余裕こいてたらとても寒かったです^ - ^笑

話変わって、

臨床でパーキンソン病の方へ運動療法を提供する事があるのではないでしょうか??

その時はどこに着目しますか?筋緊張?姿勢反射?歩容?動作緩慢?

とても大事ですね。

パーキンソン病については以前、外部刺激の効果に関するメタ解析について紹介しました。

まだ見ておられない方は下の記事をご覧ください(^^)

yuya-hanamaru.hatenablog.com

で、私達の専門とする運動療法を実施する事でそもそもの疾患の原因となっている脳へアプローチできたら良いですよね。

そして、今回パーキンソン病の方が運動する事で脳機能にも良い影響があるよー、っていう研究があったので紹介します。

が、その前に簡単にパーキンソン病の病態について説明させてください。

大脳基底核

線条体尾状核被殻淡蒼球(内節と外節)黒質(緻密部、網様部)、視床下核からなる。

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出典:高草木 2003,より引用

【大脳皮質と基底核の連携】

大脳皮質 - 基底核ループといい、4種類に分類される。

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出典:高草木 2003,より引用
  1. 運動系ループ:大脳皮質運動関連領域と主に被殻とを結ぶループ。運動機能に関与する。
  2. 前頭前野系ループ:前頭連動野と尾状核被殻吻側部を結ぶループ。認知情報や記憶に関与する。
  3. 辺縁系ループ:辺縁皮質から側坐核を中心とする尾状核の腹側部へ投射するループ。黒質網様部の入力を受ける。情動、意欲に関与する。
  4. 眼球運動ループ:前頭眼野と尾状核とを結ぶループ。眼球運動を制御する。

ドーパミンの役割】

中脳のドーパミン作動系ニューロンは以下の3つの部位に存在する。

  1. 黒質緻密部 → 被殻尾状核に投射。
  2. 腹側被蓋野 → 前頭連合野側坐核辺縁系に投射。
  3. 赤核領域 → 延髄網様体に投射。

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出典:高草木 2003,より引用

ドーパミンレベルの変化により視床-大脳投射系や脳幹の興奮性を強く修飾する。

報酬が最大になる様な行動や思考の形成にドーパミンが関与する(強化学習)。

以上が簡単な説明で、パーキンソン病ではこのドーパミン作動系ニューロンの変性により放出量が減少して運動や思考に影響が生じるのです。

 

これらを踏まえて論文の紹介に移ります。


論文タイトルの紹介:

Exercise Increases Caudate Dopamine Release and Ventral Striatal Activation in Parkinson’s Disease

著者:

Matthew A. Sacheliら

雑誌:

Movement Disorders, Vol. 34, No. 12.

発行年:

2019年

内容:

【Abstract(要旨)】

 〜背景〜

有酸素運動によるパーキンソン病患者のドーパミン放出、活動性への影響を確認すること。

〜方法〜

35人のパーキンソン病はランダムに介入群、対照群に割り付けられた。介入前後でfMRIにて報酬を見越した腹側線条体の活動を確認した。

また、rTMSを使用して背側線条体における内因性ドーパミンを測定した。

〜結果〜

 介入群はカードゲームによる報酬75%(詳細は後述)の時に、fMRIにてドーパミン量増加が確認できた(p = 0.01)。

〜まとめ〜

有酸素運動は中脳辺縁系ドーパミン作動性を変化させ、腹側線条体の活動を変化、尾状核へのドーパミン放出を増加させる可能性がある。

【本文の内容】

〜イントロ〜

パーキンソン病患者が運動をする事は運動症状、非運動症状に対して良い効果が報告されている。

◎最近の報告では座りがちな者と比較して、習慣的に運動している者は腹側線条体へのドーパミン放出、尾状核の活動に違いがあり、無気力、気分が良好であったと報告されている。

◎しかし、横断研究が主であり縦断的に因果関係を明らかにしている報告はない。

◎よって本研究ではランダム化比較試験にて背側・腹側線条体反応に対する運動の効果を確認する事を目的とする。

〜方法〜

◎対象:45 - 80歳のパーキンソン病患者、Hoehn & Yahr分類 ステージI–III

◎割り付け:有酸素運動実施=20名(介入群)、ストレッチ実施群=15名(対照群)

◎評価:介入前と各介入後である3ヶ月後に測定。

持久性評価

  • 最大酸素摂取量(VO2 max)をエアロバイクを使用して測定

脳機能評価

  • functional magnetic resonance imaging (fMRI)

→ 金銭カードゲームで4つの異なる勝率(0%、50%、75%、100%)で報酬を調整。その際の腹側線条体を測定。

  • PET スキャン
  • rTMSを使用して、それにより誘発されるドーパミン量を測定

臨床評価 運動評価 → On,Offの両方で評価 非運動評価 → Onで評価

  • MDS-UPDRS partⅢ(運動項目)
  • パーデューペグボード(手指の巧緻性を評価)

  • 手指のタッピング
  • Montreal Cognitive Assessment(MoCA)
  • Trail Making A 、B テスト
  • うつ、気分、アパシーの評価

◎介入:

介入群、対照群ともに週に3回を3ヶ月間(合計36回)

介入群の有酸素運動

 →有酸素運動はエアロバイクで実施。全部で40-60分間。うち、5-10分はウォームアップで抵抗なし。30-50分のサイクリング運動、60-80%のVO2 maxで実施。

 5-10分はクールダウンを実施。

 ※抵抗は患者の状態に合わせて決まりを定め強めていった。

対照群のストレッチング

 →同じ時間、端座位での下肢ストレッチングを実施。

◎統計解析:

グループ間と時期間での評価結果    →   反復測定分散分析

fMRIによる脳機能解析   → 3-way反復測定分散分析   

ドーパミン放出の程度 → 共分散分析

〜結果〜

◎ベースラインにおける群間での評価結果は有意差はなかった。

◎臨床評価の結果

VO2 maxは介入群で有意に向上した(P < 0.001)。他の臨床評価は介入前後で有意差は見られなかった。

fMRIの結果

金銭カードゲームで勝率75%に設定した際の両半球の腹側線条体が介入群において、介入後の活動が有意に向上した(P < 0.01)。

◎rTMSとPETによる結果

介入群において介入後の尾状核へのドーパミン放出量が対照群と比較して有意に向上した(P < 0.05)。

被殻においては有意差は見られなかったものの、介入群において介入後にドーパミン放出量が向上する傾向にあった。

〜考察〜

◎これまでの研究においても有酸素運動パーキンソン病患者においてシナプス神経可塑性の促進に起因する可能性があり、ドーパミン作動性機能の改善、D2ドーパミン受容体発現の増加につながる事が示唆されている。

◎本研究がこの分野で前向きに研究した事が新規性である。

カニズムは未だに不明であるが、有酸素運動によりドーパミン放出の増加とドーパミン受容体尾状核とか)発現の増加が確認された。

◎臨床評価において、認知機能評価は介入前後で有意差は見られなかったが、これは評価の天井効果によるものが考えられる。


 

以上が本論文の紹介になります。

記事にまとめるだけでも大変でしたが、結局パーキンソン病の方が適度な強度で持続的な運動である有酸素運動を実施する事で、ドーパミンが増え、それを受け止める受容体の数も増えるよーって事ですね!

それで、ここでいうドーパミンは冒頭で説明した所の腹側被蓋野からのドーパミン前頭前野系ループ、辺縁系ループに関するものかと思われます。

いわゆる、有酸素運動が認知機能や情動状態を司る脳機能に良い影響を与えるかもしれないとの事ですね。

臨床においてもパーキンソン病患者さんは運動機能だけではなく、二重課題が苦手になったり気分が落ち込んだりと非運動症状も生じています。

なので、有酸素運動を取り入れていく事で、身体機能だけでなく、認知機能や情動系に対しても効果があるかもとの事です。

そして、有酸素運動だけでなく、協調性を求めたりなど質的な部分に対しての運動療法も必要かと思います。それらについてまとめたレビュー論文もありますのでまた紹介させてもらいますね。

以上が今回の記事でした。最後までご覧いただきましてありがとうございます。

そして、これを見た方の臨床での考えや、対象者様のお役に立てれば幸いです!

そしてもし意見等ありましたらコメントいただければお互いの勉強にもなります!

それではまたお願いします。

参考文献:

◎Sachel A, et al. Exercise Increases Caudate Dopamine Release and Ventral Striatal Activation in Parkinson’s Disease.Movement Disorders, 2019 ; Vol. 34, No. 12.

◎高草木 薫.大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において.日本生理学雑誌. 2003;65:113−129.